生活から消えていく「火」
私たちの生活の中から、「火」が消え始めています。
給湯器ができ、IHになり、火を私たちの手から遠ざけることが、
まるで快適のバロメータであるかのように住宅は変化してきました。
しかし、そんな生活の場からは、確実に季節感が失われています。
そして、それといっしょに日々の暮らしの中でワクワクする気分も
消えている気がしませんか?
かまどでご飯を炊いたり、薪で風呂を沸かしたり、落ち葉でたき火をしたり。
面倒ではあるけれども、子供の頃体験したそれらはとても楽しいお手伝いでした。
今だって、バーベキューは楽しいし、公園で落ち葉が溜まっているのを見かけると、
たき火をしてお芋を焼いてみたいと思います。
火をつけ、それをコントロールすることになにか達成感のようなものを感じるのは、
動物の中で唯一火を使いこなすことのできる人間の本能なのでしょう。
人間は火を操ることで文明を生んできました。
さまざまな電化製品が発達し、生活の中で火を使う機会が減ることは、
逆に文明を生んだ人間の根本を揺るがすことのような気もします。
いつの世も変わらぬ「火鉢」の楽しさ 〜枕草子から〜
私は火鉢のある家で育ちました。
常にヤカンから湯気が上がり、時には餅を焼きパンを焼き、
私の地元の特産品であるカワハギの干物をよく焙っていました。
火が強ければ灰をかけ、弱ければ炭を継ぎ、口でふーふー風を送る。
灰を散らさないように吹くのって結構難しいんですよね。
でも楽しい。そして、今もその楽しさが忘れられず、部屋に火鉢を置いています。
炭火の作る暖かさは、他の暖房器具の暖かさとは異なります。
冬という季節の輪郭を際立たせ、
その寒ささえいとおしくさせる暖かさなのです。
「枕草子の第一段の冬の部分」は火鉢に炭を入れるシーンです。
冬はつとめて 雪のふりたるは言うべきにもあらず
霜のいと白きも またさらでも いと寒きに
火など急ぎ起こして 炭持て渡るもいとつきづきし
昼になりて ぬるくゆるびもていけば
火桶の火も白き灰がちになりてわろし
火鉢に火を入れる朝、現代でもこの感じは一緒なのだなあとしみじみします。
冬のとても寒い朝、火起こしをガスレンジにのせて炭を起こし、
火のついた炭を火鉢のところまで持っていく時の
なんとも言えぬほっとした感じ。
ぼわーっとあったかい空気が吹き出して、
部屋全体をあったかくするエアコンのぬるい温かさとは一線を画し、
早朝の凛とした緊張感は保ったままで、周囲の温度だけがちょっと高くなる。
空気は動かないのに、自分の周りだけが「ポッ」とあったかくなる。
昼になって、寒さもゆるみ、火桶の中の炭も灰になっている様は
「わろし」と言ってはいますが、
炭が白い灰になって捨て置かれている火鉢の風情に、
寒さも緩んだ冬の昼下がりのほっとした感じが出ていて、
のんびりとしたもうひとつの火鉢のある風景がそこにあります。
早朝には赤く燃えていた炭が、昼下がりには灰になる、
火鉢の中の世界が、冬の一日の変化を感じさせてくれます。
平安時代まで遡っちゃって、ちと大げさだったかもしれませんが、
火鉢の炭だけで、平安時代と同じ季節感を感じることができるのです。
火鉢は「おいしい」
火鉢と炭火は「おいしい」ものとも縁が深い。
例えば、炭の原木であるクヌギは、しいたけの原木としても使われます。
原木椎茸を火鉢の炭火で焼いた焼き椎茸は絶品です。
あと、火鉢と相性がいいのが油の落ちない干物。
私の地元のカワハギの干物は焙ってちぎって日本酒で、くぅ〜って感じです。
♪お酒はぬるめの燗がいい〜 肴は焙ったイカでいい〜 でござります。
ほかにも、小さい鉄鍋ですき焼きを焼いたり、
鍋焼きうどんを冷めない状態で食べられたり
干し芋もいいですね!
とにかく美味しいものと縁が深いのです。
火鉢はインテリアとしても
陶器や木で作られた火鉢は、暖房器具の中でも、出色のデザインを誇ります。
野暮なファンヒーターやエアコンとはくらべるにも及ばず、
北欧のデロンギヒーターなどとはまたちがった、オブジェ的楽しさがあります。
器の楽しさは、いろんなところで語られますが、火鉢も器のようなもの。
骨董市などを歩けば、様々なデザインに出会い、陶器好きにはたまりません。
「火鉢クラブ」では、いろんな火鉢を紹介していきたいと思います。
私はこんな火鉢を持ってるよーという投稿もお待ちします!
「火」は人間の幸せの証?
漫画家しりあがり寿先生がツイッターでつぶやいていて、
おもわずお気に入りに登録してしまったこんな名言がありました。
「全人類に告ぐ。目を覚ませ!ヤカンを火にかけ、湯を沸かせ」
冬の朝、全人類が、目を覚まして、火をつけ、湯を沸かすのです。
寒い朝、上がる湯気、それこそが人間の幸福ってもんじゃねえか!
このつぶやきを見て、そこまで思っちゃいました。
もちろん、湯を沸かすのはガスでもいいんですけど、電気ポットはダメ。
火でっていうのが重要。
寒い朝、炭火に鉄瓶をかけ、湯気が上がる。
素晴らしい一日の始まりです!
でも、火には注意も必要
しかし、火は使い方を間違えると凶器にもなります。
さらに、住宅の気密性が高くなった現代の生活では、
なかなか実際の火を使うことは難しくなっています。
しかし、炎の上がらない炭火を使う火鉢ならば、
換気さえきちんとすれば、室内で安全に火が使えます。
バーベキュー用の炭などは煙も多く臭いですが、
国産材の良い炭を買えば、あんな臭いはしませんし、煙も出ません。
燃えている間はいいにおいがしますし、空気中の塵を吸うのか、
空気がきれいになった気さえします。
これは、いい炭を使うと本当によくわかります。
炭ほど、品質によって印象の違う商品もないのではないかと思います。
かといって、やはり換気には十分気をつけて下さい。
今の住宅の場合は、換気扇をまわす、窓を少し開けておくことなどは必須です。
昔の家は隙間だらけだったのでそんな必要なかったんですけどね・・・。
炭を使うことは森を守ること
戦後、石油がエネルギーの主流になるまで、
家庭のエネルギーは薪と炭によってその多くがまかなわれていました。
自ずと、周辺の森では、薪や炭につかうために間伐材が利用され、
そうした間伐を行うことで、森の健康も保たれてきました。
しかし、木炭の生産量は1957年をピークに、
現在は当時の100分の1ほどの生産量しかありません。
また、外国からの輸入木材が増え、
かつこのように木材のエネルギー利用も急激に減ったことから、
林業者による森の管理が行われなくなり、森は荒れ放題です。
このところ、頻繁に報じられるクマの出没なども、
森が荒れて、どんぐりなどの餌が減ったからだと言われています。
もちろん、森が痩せれば山の保水力が衰え、洪水も起こりやすくなります。
森の荒廃が問題視される現在、炭を使うことは、森林保全の第一歩ともなります。
そのほかにも炭の効用はたくさんあります。
そこで、これからこのブログで、火鉢を使った
- 炭の火の付け方、使い方
- 炭の効用
- 火鉢があるとこんなに楽しい
などなど、都会でも楽しめる「火鉢ライフ」を紹介していきたいと思います。
でも、換気には注意してね!
人間の快適と幸せの元は「火」にあり。
そんな幸せを感じるべく、みなさんも火鉢生活やってみませんか?
いいですねえ…羨ましいです!
返信削除私も火鉢買おうかなあ・・
日本の文化ですものねえ
陽当たりの悪い部屋でふと思い立ち
返信削除今年から火鉢生活始めました。
寒くて嫌な部屋が速く帰りたい部屋になりました
通りすがりのものです。朝、ガスで真っ赤っかになった炭火を十能で運ぶのも胸躍りますし、前夜に灰をかぶせておいた炭火を、灰をよけて息をふーふー吹きかけたり、新たに埋めておいて炭火の移った炭を掘り起こしたり……と火力を回復させるのも「火を継いでいる」感に満たされます。どこかゾロアスター教信徒に通じるのかもしれませんね。灰をうっすらとかぶせておいて五徳にヤカンをかけたままにしておくと、朝までそこそこの温度でお湯が保てているので、それでまず夜明け前のインスタントコーヒーで目覚めの一杯。これを味わいながら前夜の炭火回復作業を楽しむのも、冬のお気に入り作業です。
返信削除